2月の初旬に一緒に山の村へ行ったボランティアの小泉さんから、素敵なミニエッセーが寄せられました。
村々でバスケットをつくる人々の家をたくさん訪問したのですが、そこでみかけたバスケットが今は店に
並んでいます。そのバスケットたちの声がきこえてきます。
手書きのやさしい挿絵も小泉さんです。
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山の旅から戻った私の、バンコクのお店での出来事。
カレンの村では出来立てホヤホヤだったバスケット達と、再会のごあいさつ。
― こんにちは。あなたは、作り手さんの家を訪ねた時、まだ仕上がっていなかった
あのバスケットさんですね。
「そうです。仕上げのふちかがりは大変気を使うのです。作り手さんはあの時ぼくをすぐ仕上げて引き渡すわけにはいかなかった。翌日夜が明けないうちに家を出て山道を一時間、ぼくを運んでくれました。早朝チェンマイに戻ると聞いていましたからね。」
― 朝早い出発でした。山のデコボコ道を3時間、そこからは舗装道路に変わるけれど、チェンマイまでは一日がかりなの。まっくらな山の小道、さぞや歩きにくかったでしょう?
「寒かったけど、山道は慣れっこです。それに、星明かりがとてもきれいでね。山の
夜空は、天の川がたくさんの星で年中洪水です。雨期になると、山道も川になるけどね。」
―隣の あなたとは、朝早く訪ねた村でお会いしましたね。
「はい、乾季の終わるこの時期は農作業が忙しくなるので、朝にと、無理を頼みました。」
― あちこち体が痣になるのではと心配するくらい、4WD車が揺れる道でしたよ。
「それでも公道ができたのはたった2年前。以前ケントさんは、ゾウの背に薬を積み、
一日かけて歩いて訪ねるのが常だったそうです。ぼくは車で運ばれました。幸運です。」
― お会いした時より、あなたは色つやが良くなった様にお見受けしますが?
「よく気がついて下さいました。丈夫な作りも自慢だけど、この色つやは、作り手さんの手から離れて燻製小屋で一カ月近く、ケントさんやスタッフさんに色のチェックを受けながら、毎日燻していただいたおかげなのです。電灯の下でも、しっかりきれいでしょう?」
彼らの生まれた村を訪ね、彼らが山を降りバンコクのお店に並ぶまでの道のりを、
この旅でたどることが出来きた今の私だから、聞こえた声だったのかもしれません。
電気の無い村で生まれた彼らは、今、慣れない人工の明かりに少し緊張し、
そして誇らしげに光りながら、お客様との出会いを待っているように見えます。
そんな織物やバスケットに会いに、どうぞお店にいらしてください。

